見積書に「長期優良住宅申請費」という行が入っていることがあります。金額は数十万円で、内訳は書かれていません。何にいくらかかっているのかを聞かないまま、税制優遇があるならと納得して進めてしまう場面です。
結論から言うと、私は長期優良住宅の認定を単独で追いかけるものではないと考えています。耐震等級や断熱等級を上げていけば認定基準はほぼ満たせますし、実際に新築戸建ての約4割がすでに認定を取っています。判断すべきなのは「取るか取らないか」ではなく、申請費の内訳と、認定後に30年続く維持保全の義務を受け入れられるかという2点です。
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長期優良住宅の申請費用を本体価格に含めている会社もあれば、別途見積もりの会社もあります。複数社に同じ条件でプランと見積もりを依頼すると、この行の金額差がそのまま見えてきます。
この記事でわかること
- 新築戸建てのどれくらいが長期優良住宅の認定を取っているか
- 現行の認定基準(一戸建てで関係するのは8項目)
- 審査の実費と、見積書に載る金額の差
- 税制優遇の実額
- 認定後に30年続く維持保全の義務と、守らなかった場合の扱い
新築戸建ての約4割がすでに認定を取っています
長期優良住宅は、長期優良住宅の普及の促進に関する法律にもとづき、所管行政庁が住宅の建築・維持保全の計画を認定する制度です。平成21年6月に始まりました。
国土交通省が公表している令和6年度末時点の認定状況は次のとおりです。
- 一戸建ての住宅:136,842戸(新築戸建ての着工戸数に対する割合39.3%、累計1,694,243戸)
- 共同住宅等:8,231戸(同1.8%)
- 合計:145,073戸(同17.8%)
新築戸建ての39.3%、およそ4割が認定を取っています。しかも5年連続で過去最高を更新しています。特別な住宅に与えられる称号ではなく、注文住宅では標準的な選択肢に近づいているのが実態です。
興味深いのは、同じ令和6年度に設計住宅性能評価書の交付を受けた一戸建てが131,905戸で、長期優良住宅の認定戸数のほうが多いという点です。性能を示す制度としては後発の長期優良住宅のほうが、戸建ての現場では広く使われています。税制優遇が明確に紐づいていることが理由だと考えています。
現行の認定基準(一戸建てで関係するのは8項目)
ここは情報が古いまま出回っている部分なので、現行の基準を整理しておきます。よく「9つの基準」と説明されますが、可変性とバリアフリー性は共同住宅だけの基準です。一戸建てで実際に関係するのは8項目です。
| 基準項目 | 求められる内容 |
|---|---|
| 省エネルギー性 | 断熱等性能等級5、かつ一次エネルギー消費量等級6に適合すること |
| 耐震性 | 耐震等級(倒壊等防止)2以上/または耐震等級1に適合し安全限界時の層間変形角を1/100(木造は1/40)以下とする/または免震建築物 |
| 劣化対策 | 劣化対策等級3、かつ構造の種類に応じた基準に適合すること(数世代にわたり構造躯体が使用できること) |
| 維持管理・更新の容易性 | 維持管理対策等級(専用配管)3 |
| 住戸面積 | 75平方メートル以上、かつ住戸内の一つの階の床面積が40平方メートル以上(地域の実情に応じて増減あり、下限55平方メートル) |
| 居住環境 | 良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持・向上への配慮 |
| 計画的な維持管理 | 構造耐力上主要な部分・雨水の浸入を防止する部分・給排水設備について点検の時期と内容を定め、少なくとも10年ごとに点検を実施すること |
| 災害配慮 | 自然災害による被害の発生の防止または軽減への配慮 |
※国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要」の認定基準(新築・木造戸建住宅)をもとに整理しました。可変性とバリアフリー性は共同住宅のみの基準のため除いています。
省エネ基準は2022年10月に引き上げられました
ネット上には「断熱等性能等級4以上」と書かれた解説が今も残っていますが、これは古い情報です。令和4年10月に、新築の認定基準はZEH水準にあたる断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6へ強化されました。断熱性能だけでなく、設備を含めたエネルギー消費量の性能も問われるようになった点が変更の中身です。
この引き上げによって、認定を取ること自体が住宅の性能を一段押し上げる仕組みになりました。等級の意味と数値の見方は注文住宅の断熱性能の選び方、会社ごとの公表状況はハウスメーカーの断熱・気密性能を比較で整理しています。
耐震性の扱いは2025年4月に変わりました
ここは経緯を知らないと混乱する部分です。基本の基準は耐震等級2以上ですが、令和4年10月の省エネ基準引き上げに伴い、2階以下の木造住宅で壁量計算により耐震等級を確認する場合には、暫定的に等級3が求められていました。省エネ仕様によって建物が重くなることへの対応です。
その後、建築基準法の壁量計算の考え方が個々の建物の仕様に応じた算定式に見直され、令和7年4月1日以降に申請する住宅では、この暫定的な措置が廃止されて等級2以上に戻っています。基準の適用は申請日で判断されます。
ただし実務では、耐震等級3を選ぶ施主が多いのが実感です。認定基準を満たすためというより、地震保険料の50%割引と、地震後に住み続けられる可能性を考えての選択です。等級の選び方は耐震等級1・2・3の違いと注文住宅での選び方にまとめています。
費用は「審査の実費」と「見積書の金額」を分けて見る
ここが本題です。長期優良住宅の申請には、大きく2つの費用がかかります。
審査の実費は7万〜8.5万円程度です
1つは登録住宅性能評価機関による長期使用構造等の確認(技術的審査)、もう1つは所管行政庁への認定申請手数料です。いずれも公開されている金額があります。
| 費用の種類 | 支払先 | 金額の例 |
|---|---|---|
| 長期使用構造等の確認 (技術的審査) | 登録住宅性能評価機関 | 一戸建て200平方メートル以下で49,500円〜66,000円(税込) |
| 認定申請手数料 | 所管行政庁(自治体) | 大阪市13,000円/京都市19,000円(一戸建て・確認書を添付する場合) |
| 合計 | - | おおむね7万〜8.5万円程度 |
※評価機関の公開料金表および各自治体の公表手数料より。金額は機関・自治体・床面積・計算方法によって異なります。
見積書に載る金額は、これより大きくなります
私は耐震等級3の取得と長期優良住宅の認定を合わせて進めました。申請にかかった費用は50万円ほどでした。上に挙げた実費とは、かなりの開きがあります。
この差は、施工会社側の設計・申請の実作業に対する費用です。構造計算、省エネ計算、仕様書や図面の整備、申請書類の作成と提出、指摘対応まで含まれます。差額が生じること自体は不自然ではありません。手間のかかる作業であることは、業界にいた立場からも理解しています。
問題になるのは、内訳がわからないまま総額だけが提示される場合です。同じ「長期優良住宅申請費」でも、耐震等級3の構造計算を含む金額と、書類作成だけの金額では中身が違います。金額の妥当性を判断するには、その行に何が含まれているかを聞くしかありません。
仕様変更にかかる費用は別に発生します
忘れやすいのが、基準を満たすために仕様そのものを変える費用です。断熱材の仕様変更、耐力壁の追加、配管の点検口の設置など、工事費として跳ね返る部分があります。標準仕様がすでに基準を満たしている会社なら発生しませんが、そうでなければ申請費より大きな金額になることもあります。
見積もりを比べるときは、申請費と仕様変更費を分けて出してもらうことをおすすめします。この2つを合算した金額だけで比べると、標準仕様が高い会社が不利に見えてしまいます。
税制優遇を実額で並べる
認定を取ると、4つの税で優遇が受けられます。一般住宅との差を並べます。
| 税の種類 | 一般住宅 | 長期優良住宅 |
|---|---|---|
| 住宅ローン減税の借入限度額 (令和8年入居・新築) | 省エネ基準適合住宅2,000万円 ZEH水準3,500万円 | 4,500万円 (子育て世帯・若者夫婦世帯は5,000万円) |
| 固定資産税の減額期間 (2分の1に軽減) | 戸建3年間 | 戸建5年間 |
| 不動産取得税の控除額 | 1,200万円 | 1,300万円 |
| 登録免許税(所有権保存登記) | 0.15% | 0.1% |
※国土交通省の公表資料より。登録免許税は令和9年3月31日まで、不動産取得税・固定資産税は令和13年3月31日までに新築されたものが対象です。住宅ローン減税の控除率は0.7%、控除期間は13年です。
効き方に幅があるのは住宅ローン減税です。借入額が大きいほど差が出ますが、そもそも納めている所得税・住民税の額を超えて戻ることはありません。借入額が小さい方や、控除しきれないケースでは、この4,500万円という枠は使い切れません。ここを勘違いすると、優遇の見積もりが大きくなりすぎます。仕組みの詳細は住宅ローン控除2026|控除額と申請方法で確認してください。
固定資産税の2年延長と不動産取得税・登録免許税の差は、金額としては数万円から十数万円の規模です。これらは確実に効きますが、申請費だけで元が取れるかというと、条件次第です。補助金と組み合わせた場合の考え方は家づくりで使える補助金・減税制度まとめにまとめています。
【PR】標準仕様で基準を満たすかどうかが分かれ目です
断熱等級5と耐震等級を標準で満たしている会社なら、仕様変更の費用は発生しません。各社の標準仕様は間取りプランと見積もりを取り寄せると比較しやすくなります。
認定後には30年の維持保全義務があります
ここが最も説明されていない部分です。長期優良住宅の認定は、取得して終わりではありません。
維持保全の期間は30年以上と法律で定められています
長期優良住宅の普及の促進に関する法律第6条は、認定の基準として「建築後の住宅の維持保全の期間が三十年以上であること」を定めています。認定を受けるとき、施主は30年以上にわたる維持保全計画を提出しています。
計画の中身は、構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分、給水・排水設備について点検の時期と内容を定めるもので、少なくとも10年ごとに点検を実施することが求められます。点検の結果、必要に応じて補修や改修も行います。
この点検・補修の費用は自己負担です。認定を取ったからメンテナンス費用が下がるわけではありません。むしろ計画として明文化される分、先送りしにくくなります。実際にかかる金額の目安は注文住宅の完成後メンテナンス費用で整理しています。
記録の作成と保存も求められます
同法第11条により、認定計画実施者は建築および維持保全の状況に関する記録を作成し、保存することとされています。点検をしたら記録を残すということです。
私は建設資材メーカーに十数年勤めてきました。その経験から言うと、この記録は実務で効きます。使われている部材の型番や仕様が残っていれば、10年後20年後の補修で「同等品を探す」段階を飛ばせます。代替品の選定に時間がかかって工事が止まる場面を何度も見てきました。義務として面倒に感じる部分ですが、後々の自分を助ける記録でもあります。
計画どおりに実施しない場合の扱い
法律には次の規定があります。
- 第12条(報告の徴収)……所管行政庁は、認定計画実施者に対し建築または維持保全の状況について報告を求めることができます
- 第13条(改善命令)……計画に従って維持保全を行っていないと認めるときは、期限を定めて改善に必要な措置を命ずることができます
- 第14条(計画の認定の取消し)……改善命令に違反したときなどには、認定を取り消すことができます
認定が取り消された場合、それまでに受けた税制優遇の扱いが問題になります。実際に取消しに至る例は多くありませんが、30年間の義務を負う制度だという前提は理解した上で申請してください。「税金が安くなるので取っておきました」という説明だけで進めるのは、少し軽い受け止め方だと考えています。
増改築や売却のときは手続きが必要です
認定を受けた計画を変更する場合、所管行政庁への変更認定の申請が必要になります。リフォームで間取りや設備を変えるときが該当します。また、相続や売買で所有者が変わるときは、地位の承継の手続きを行います。
将来リフォームや二世帯化を考えているなら、この手続きの存在は頭に入れておいたほうが動きやすくなります。
取る価値をどう判断するか
ここまでを踏まえた私の判断軸です。
自然に取れるなら取ったほうがよいケース
- 契約先の標準仕様がすでに断熱等級5・耐震等級2以上を満たしている場合……仕様変更の費用が発生せず、申請費だけで済みます。この条件なら取らない理由が見当たりません
- 借入額が3,500万円を超える見込みの場合……住宅ローン減税の借入限度額の差が実額として効いてきます
- 点検と記録を続けられる見込みがある場合……維持保全の義務を負担ではなく仕組みとして使えます
慎重に判断したいケース
- 標準仕様が基準に届かず、仕様変更の費用が大きくなる場合……その費用で断熱や耐震そのものを引き上げたほうが、住み心地への効き方は直接的です
- 借入額が小さく、所得税・住民税の額から見て控除枠を使い切れない場合
- 数年以内に大きな増改築を予定している場合……変更認定の手続きが重なります
認定そのものを目的に据えるのではなく、目指す性能を先に決めることをおすすめします。耐震等級と断熱等級を決めていけば、認定基準は後からついてきます。順番を逆にすると、基準を満たすためだけの仕様変更にお金を払うことになります。
商談で確認しておきたいこと
契約前に、次の5点を確認しておくと金額が動きにくくなります。
- 標準仕様のままで認定基準を満たすか。満たさない場合、どの項目にいくらかかるか
- 「長期優良住宅申請費」に何が含まれるか(技術的審査手数料・行政の認定手数料・設計や書類作成の費用を分けて)
- 申請費は本体価格に含まれるか、別途か
- 維持保全計画の内容と、点検を誰が行うか(自社のアフター点検と兼ねられるか)
- 認定通知書をいつ受け取れるか(税の申告と地震保険の手続きで使います)
特に4点目は聞いておく価値があります。10年ごとの点検を施工会社の定期点検と兼ねられるなら、実質的な手間はかなり減ります。会社ごとの点検体制の違いはハウスメーカーの保証・アフターサービスを比較で整理しています。
よくある質問
長期優良住宅を取ると地震保険は安くなりますか
耐震等級2以上が認定の条件に含まれるため、地震保険の耐震等級割引(等級2で30%、等級3で50%)の対象になり得ます。ただし割引の適用には等級を確認できる資料が必要で、どの書類が使えるかは保険会社によって扱いが異なります。認定通知書で足りるのか、住宅性能評価書が要るのかを、加入予定の保険会社に確認してください。
長期優良住宅と住宅性能評価は同じものですか
別の制度です。長期優良住宅は所管行政庁が計画を認定する制度、住宅性能評価は登録住宅性能評価機関が性能を等級で表示する制度です。長期優良住宅の認定を受けても、住宅性能評価の建設評価のような第三者の現場検査が自動的に付くわけではありません。
認定を取ると点検を無料で受けられますか
いいえ、点検と補修の費用は自己負担です。認定は維持保全の計画を定めることを求めるもので、費用を補助する制度ではありません。
着工後でも認定を申請できますか
認定申請は着工前に行うのが原則です。設計内容の確認を前提とする制度のため、工事が進んでから思い立っても間に合いません。取得を考えるなら、間取りと仕様を固める段階で相談してください。
売却するときに評価されますか
性能の根拠を示す材料にはなります。ただし中古住宅の売買価格に認定の有無がどの程度反映されるかを示す公的なデータは見当たりません。売却時の効果を主な目的にするのは、現時点では根拠が弱いと考えています。
まとめ
長期優良住宅は、新築戸建ての約4割が取得する、注文住宅では標準的な選択肢になりつつある制度です。省エネ基準は2022年10月に断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6へ引き上げられ、耐震性の壁量計算の扱いは2025年4月に変わりました。古い基準のまま書かれた解説が多いので、契約時点の基準を確認してください。
審査の実費は7万〜8.5万円程度ですが、見積書に載る金額はこれより大きくなります。差額は設計・申請の実作業に対するもので、それ自体は不自然ではありません。確認すべきなのは金額の大小ではなく、その行に何が含まれているかです。
そして認定は取って終わりではなく、30年以上の維持保全と10年ごとの点検、記録の保存という義務がセットになっています。私であれば、標準仕様で基準を満たす会社と契約するなら迷わず取ります。そうでない場合は、認定を追いかけるより、その費用を断熱や耐震の仕様そのものに回します。目指す性能を先に決めて、認定は結果として付いてくるものと考えるのが、無駄の少ない進め方です。
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